読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

石橋を創って渡る。

日々の創作日記。 このブログは、パソコン版表示を推奨します。 記事は横へと動くようになってます。

ナナセと本を助けに行く話 -2-

東京へと向かう車の中で、僕はナナセの「本を助ける」という話の経緯を聞かされた。普通は出発する前に話すべき内容を、ナナセはようやく僕に教えはじめる。それは何かの演説を聞いてるようで、僕は彼が話し終わるまで、流れる景色を見ながら黙って聞いた。

 

「うちの大学には旧館と新館があって、学生のほとんどは新館の施設を利用する。もちろんそれは当たり前のことだし、新しい施設を有効に使おうとしている学生には何の文句もない。俺だって新館のほうが好きだ。

新館と旧館の大きな違いとして、本の量の違いがある。新館には十万冊の本があるのにたして、旧館には千冊もないくらい。もともと大学の創設者が寄贈した本らしく、どれも古い資料や文献ばかりで、利用する奴なんて誰もいなかった。さらに旧館はとくに管理する人がいないようで、馬鹿な学生が隠れてセックスできるくらい人がこない。

新館に本を運ぶのが面倒なのか、新館に置き場所がないのか分からないけれど、大学側も旧館の本にはそれほど興味が無いようだった。

そこで大学側がもう処分しようと考えたらしく、旧館の本を無料で配布しだした。もちろん配布といっても配る係がいる訳じゃない。ただ自由に持っていけっていう、いい加減な配布なんだ。そして今思えば、大学側のこの対応もいけなかった。

うちの大学は本を読まない奴が多いから、九〇%の学生はその配布に興味を示さなかった。本を読む十%の学生は、わざわざ旧館へ行くのが面倒らしく、一ヶ月が過ぎても本はなかなか減らなかった。

俺もあまり本を読まないから気にしてなかったが、昨日大学の食堂で昼ごはんを食べていたら、ちょうど後ろの席からとんでもない話が聞こえてきた。

後ろの席に居たのは三人の名前の知らない先輩だった。そいつらは大学の中でも真面目な奴らで、バカ騒ぎをする連中を影で愚痴っている部類の人間だった。それでその三人の会話の中で、旧館の本の話が出たんだよ。それでこの会話の内容というのが、実に腹立たしいんだ。

簡単にいうと、奴ら旧館の本が無料であることをいいことに、それをネット通販で売って儲けてるんだよ。しかも旧館のことを「在庫置き場」って呼んでるんだぜ。ほんと糞みたいな連中だろう? 泥棒よりもたちが悪い! 大学の恥だ! まだバカ騒ぎしている連中のほうがましだ! あの糞野郎ども!」

 

ナナセはそう怒鳴ると、ハンドルを三回叩いた。僕はナナセの話を聞いて一緒に怒りが込み上げていた。

ナナセという男はひどく変わった人間だけれど、それでも善悪の区別はしっかりとしていた。彼は彼なりの正義感で行動し、それは時に周りの人を驚かせる。今回の話でいえば、大学が学生に無料で本を提供したとはいえ、それを利用して金儲けをする連中に腹を立てている。たとえそれが大学の学生全員から無視された本たちであっても、ナナセは連中の行為をしっかりと悪だと訴えているのだ。正直こういった男気に憧れて、僕は彼の傍にいるのである。

こうした理由ならば、突然の拉致も許す気になった。僕とナナセは、きっとこれから悪を成敗しに行くのだし、憧れの東京を観光するわけではないので、財布なんて当然なくてもいいのだ。そう、所持品なんて、充電が五〇%の携帯電話だけで十分なのである。

「なるほど。それでこれから僕らはどうするの?」

呑み込みの良い自分に感動すら抱きながら、僕はナナセに尋ねた。

 

「そんなの決まってるだろう。今から奴らの〝在庫置き場〟の本を、読書家で本を愛しているお前の家に全部運ぶんだよ!」

「え? 千冊くらいの本を? 僕の家に……?」

「いや、奴らが少し売ったから今は八百冊くらいかな」

「そっか……」

 

なるほど、やはりナナセはぶっとんだ男である。

                                    つづく