石橋を創って渡る。

日々の創作日記。 このブログは、パソコン版表示を推奨します。 記事は横へと動くようになってます。

ナナセと本を助けに行く話 -3-

ナナセと僕は順調に高速を進み、あと一時間くらいで大学に着くところまで来ていた。道中はお互いの近況について報告し合ったり、サービスエリアで安いカレーを食べたりと(もちろんナナセのおごり)、突然連れてこられた割には楽しい時間を過ごしていた。

 

「そろそろ、この服に着替えてくれる?」

高速を降りたあたりで、ナナセは後部座席からくしゃくしゃのTシャツと、くしゃくしゃのジーパンを引っ張り出した。たぶんナナセの私物で、たぶん最後に洗われたのは遠い昔で、たぶんちょと湿ってる服だ。

「どうして着替える必要があるのさ」

少し潔癖症である僕は、洗われていないその服に着替えたくなかった。けれどナナセなりに、しっかりとした着替える理由があった。

「お前は服がきっちりしすぎてるんだよ。そんなアイロンをちゃんと掛けてるような服は、一人暮らしの多いうちの大学じゃ目立つんだよ。変装だよ、変装。一応お前は部外者なんだから、出来るだけ人目は避けたいだろう?」

なるほど、もっともな意見である。実家暮らしの田舎者が、一人暮らしの多い学生の中に潜入するのだから、確かに今の服装では目立つのかもしれない。それに部外者である僕が八百冊の本を大学から持ち出すわけだから、もちろん人目は出来るだけ避けるべきである。

なんだかうまく言いくるめられているようで不満だったけれど、郷に入っては郷に従え精神で、僕はしぶしぶ着替えることにした。Tシャツは少し湿っぽくて、どのくらい洗ってないのか気になったが、聞いたところで結局は着続けるのだから、もう諦めて考えないことにした。

 

ようやく大学に着いたのは、午後の三時だった。大学の門の前には警備員の人が立っていて、学生がちらほら出たり入ったりしていた。

「警備員に僕が部外者ってバレないかな?」

いよいよこれから大学に潜入するのだと思うと、なんだか急に心配になってきて、湿っぽいTシャツはさらに湿ってきた。

「大丈夫、大丈夫。警備員なんて飾りみたいなもんなんだから」

ナナセはそういうと、わざわざ警備員に手を振りながら車を進める。僕は一瞬ヒヤッとしたけど、警備員は特に僕らの方を見ることもなく、そのまますんなりと車は大学の門を通った。大学という環境について無知な僕は、こんなに簡単に部外者が入れて大丈夫なのかと心配になった(こればかりは変装のおかげだと思いたい)。

 

僕が人生初めて大学に入ったのはこの時が初めてで、それが八百冊の本を持ち出す為だとは思いもよらなかった。ほんとうに人生って何が起きるか分からないもので、これもすべてナナセという男と出会ったからである。

初めての大学に興奮している僕の為に、ナナセは車で校内をぐるりと回ってくれた。次から次へと視界に入り込んでくる様々な情報は、まさしく僕が憧れた都会の大学で、ナナセには悪いけれど、とても楽しそうな場所だと感じた。

そして十五分くらいの大学ツアーが終了すると、車はいよいよ目的地である旧館へとたどり着いた。

 

旧館は思っていたよりも小さかった。こんな小さなところで学生が勉強していたのかと思ったけれど、ナナセの話では本館は別にあり、旧館というのは資料館のことだった。

コンクリートで出来たその旧館は、遠くから見ると年老いたゴーレムがうずくまっているようにも見えた。それほど壁は汚れていて、建物全体が疲れ切っている印象を受けた。

さっそく中に入ると、ナナセの言っていた通り誰もいなかった。お化けが出ると言われれば信るくらいの雰囲気があり、出来れば早く本を回収して帰りたいと思った。

けれど物事というのは、思い通りにはいかないものである。

 

問題の八百冊が置いてある部屋に入ると、そこにはダンボールが四つ積まれているだけで、本棚には一冊も本が残っていなかったのである。

 

 

                                     つづく