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石橋を創って渡る。

日々の創作日記。 このブログは、パソコン版表示を推奨します。 記事は横へと動くようになってます。

ナナセと本を助けに行く話。 ―4―

ナナセと本を助けに行く話。

小学生の時、ナナセは色んなとろこに登るのが好きだった。太い木や山の斜面、凹凸があればコンクリートの壁すらも登った。僕はといえば、ケガをするのが怖くてただ見ているだけで、流石に危ないと感じた時は、「もう諦めろ」とナナセを止める役目をしていた。

だけど僕が止めても、ナナセはだいたい諦めなかった。彼は必ず頂上まで登り切り、満足そうな表情で遠くの景色を眺めるのだった。だから目的の八百冊が消えた時も、僕はナナセが諦めるとは思わなかった。

彼はきっと最後までやりきる。ナナセはそういう人間なのである。

 

空っぽの本棚の前で、ナナセと僕は推理を始めた。まさに探偵にでもなった気分で(ナナセがホームズで、僕はワトソン)、八百冊の本の行方を想像した。

正確にいうと、部屋からは八百冊もの本は消えていなかった。部屋にあった四つのダンボールを開けてみると、そこには本が入っていたのである。一箱にだいたい五十冊、計二百冊くらいの本が残っていたことになる。

「奴らの仕業だな」とナナセは怒りながら言う。「きっとここへ来る手間を省く為に、手近な場所に本を移しているんだ。昨日食堂で台車がいるとか話してた気もするし、多分間違いない。だからこのダンボールを運びに、奴らが戻ってくるかもな」

なるほど、確かにここは本館から離れているようだし、いちいち取りに来るのも面倒だ。保管場所を移しているという、ナナセの推理は当たっているかもしれない。

「ならこの二百冊だけでも車に積む?」

「いや、それじゃ残りの六百冊が奴らに持っていかれる。俺はあいつらに一冊だって渡す気はないんだ」

「それじゃどうする?」

ナナセは少し考えてから、僕に作戦を説明した。

 

ナナセの作戦はシンプルだった。

まず、車から台車を降ろす(ナナセにしては準備が良い)。次にナナセは車を旧館から離れた駐車場へ置きに行き(奴らを警戒させない為)、僕はナナセが戻るまで、台車と共に近くの公衆トイレの裏から旧館を見張る。そして奴らが来たら二人で後をつけて、八百冊の本に案内してもらう。あとは、彼らが居なくなるのを待って本を回収、といった感じである。

もたもたしていると彼らと鉢合わせになるので、僕らはすぐに行動に出ることにした。台車を降ろして、ナナセは車に乗って走り出し、僕は公衆トイレへと向かった。

公衆トイレに着くと、僕は〝小〟の方がしたくなり、丁度良いので今のうちに済ませておくことにした。奴らが戻ってくるまでどのくらい掛る分からいし、ここで済ませておくのは良い選択だと思った。けれど実際、この選択は間違っていたこととなる。

 

台車を入口の辺りに立てかけて、出来るだけ急いで用を済ませた。そして手を洗って外に出ると、突然声を掛けられた。

「これ君の台車?」

僕の心臓はギュッと縮こまり、Tシャツはさらに湿りはじめる。ナナセがいない今、僕は完全な部外者であり、この状況で学生と話してしまうことは非常に危険だった。かといって無視をしてはよけいに怪しまれるし、さて、どうしたものだろう……。

恐る恐る声の主を見ると、そこには小さな台車を持った真面目そうな男が、僕らの台車を指さしていた。そしてもう一度、「これ君の台車?」と言った。

この瞬間、僕の頭の中では素早い推理が始まる。ホームズが居なくても、ワトソンにだってこれくらいの推理はできる。

 

〝人気のない旧館近く〟

〝僕らと同じように、荷物を運ぶ為の小さな台車〟

〝真面目そうな男〟

 

そう、よりにもよって僕が話かれられたのは、ナナセの言っていた「奴ら」の一人だったのである。

 

 

                                     つづく