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石橋を創って渡る。

日々の創作日記。 このブログは、パソコン版表示を推奨します。 記事は横へと動くようになってます。

ナナセと本を助けに行く話。 ―完―

「ゾウを冷蔵庫に入れる方法は?」という、ジョーク問題がある。その答えは「冷蔵庫の扉を開ける→ゾウを入れる→扉を閉める」というもので、真剣に考えていた人にとっては拍子抜けの答えとなっている。

この問題を僕なりに解釈すると、「物事を難しく考えず、現実的にシンプルに考えろ」ということだ。だから物を入れるには、扉を開けて、物を入れて、扉を閉める、これ以外の方法というのは存在しないのである。

 

八百冊の本を目の前にした時、ナナセと僕は「八百冊の本を、軽自動車に入れる方法」という問題を考えていた。けれどゾウのジョーク問題が頭をよぎった僕らは、「まあとにかく入れてみよう」ということになった。とにかく車の扉を開けて、ダンボールを入れて、最後は扉をしめる。そうすれば八百冊の本は軽自動車に入るのである。

「他に手伝ってくれる人はいないの?」

作業の途中、僕はナナセに質問をした。作業が思いのほか大変だったこともあったけれど、単純にナナセの大学での人間関係が気になった。

「友達はいない。それにこんなこと誰もやりたがない。みんなトラブルを避けて生きたいんだよ。そうやって生きてるから、ここの奴らは人として大切なことを忘れるんだ」

ナナセは時々哲学的なこと言う。そして僕はナナセの言葉にいつもドキリとする。

もしも僕が大学でナナセと出会っていたら、果たして友達になっただろうか。

もしも友達になったとしても、果たして本を一緒に助けに行くだろうか。

僕はどちらも自信がもてなかった。ナナセと大学で出会っていたら、おかしな奴だと思って馬鹿にしてたかもしれない。

「馬鹿なことに付き合ってくれるのはお前だけだ」

ナナセは笑いながらそう言ってくれた。僕は嬉しい気持ち半分、申し訳ない気持ち半分で笑うしかなかった。

 

作業は順調に進み、奇跡的なことに八百冊の本は軽自動車に入った。僕らは途中からパズルをしているような感覚になり、隙間が生まれればそこにも本を詰めた。その結果、車内は運転席と助手席を除いて、全てが本で埋めつくされた。多分女子高校生に見られたら、笑われてツイッターにアップされるくらい、おかしな車が出来上がった。

車に乗り込んでアクセルを踏むと、エンジンは苦しそうにうなった。走り出しはのろのろとしてたけれど、スピードがつけば車は何とか進んだ。

門を通るのが一番怖かったけれど、入る時同様、警備員は特に僕らを見ることはなかった。流石にこの車を止めないというのはどうなんだろう。結局大学の警備体制については、僕は最後まで心配しつづけてしまった。

 

その後の僕らは「びっくりドンキー」で夕ご飯を食べて、運転を交代しながらなんとか地元へと帰った。僕の家に着いたのは夜の二時で、車から本を降ろし終わった時には四時になっていた。

ナナセと僕は達成感と疲労感を抱えて、本で溢れた部屋でぐっすりと眠った。

それから八年くらい経った今でも、部屋の本棚と物置きにはあの八百冊の本がある。そしてそれを見るたびに、僕は本が詰まった車を思い出し、一人部屋で笑ったりする。

 

                               終わり

 

 

後日談

ナナセの匿名の告発によって、本を売っていた三人は謹慎処分を受けらしい。僕と出会った真面目そうな男は、匿名の告発者を僕であると思い込んだらしいが、大学内を探しても勿論僕はいなかった。彼にとって僕の存在は一生の謎となるだろう。

大学がつまらないと言っていたナナセは、その後大学を止めてしまった。やめた後はIT系の会社を立ち上げて、同世代の中では今一番年収が多い。忙しくて遊ぶ機会が減ってしまったけれど、地元に帰ってくると僕らは必ず飲みに行き、読書や哲学の話で朝まで盛り上がったりする。